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仙台高等裁判所秋田支部 昭和50年(行コ)2号 判決

秋田県男鹿市船川港新浜町九番地

控訴人(第一審原告)

諸井喜代治

右訴訟代理人弁護士

金野繁

同県秋田市土崎港中央六丁目九番三号

被控訴人(第一審被告)

秋田北税務署長

佐藤周平

右指定代理人

山田巌

山田昇

大宮由雄

泉司郎

紅林実

久下幸男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四五年五月九日付けでした控訴人の昭和四三年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定は、総所得金額一九二万五、四六八円を超える限度において取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に訂正、付加するほか、原判決二枚目表四行目から同一九枚目裏九行目までの記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二枚目表八行目及び同裏六行目に「一、六六七万七、七九一円」とあるのを「一、六六七万六、七九一円」と、同四枚目表九行目から一〇行目にかけて「同法三八条の六の四項により同法三八条の三の三項ただし書の」とあるのを「同法第三八条の六第四項ただし書の」と、同一〇行目から一一行目にかけて「認める場合で政令で定める場合」とあるのを「認める場合」と、同裏一行目に「同法三五条及び三六条の六」とあるのを「同法第三五条第三項及び同法第三八条の六第四項」と、同一八枚目表五行目から六行目にかけて「措置法三五条四項ただし書」とあるのを「措置法第三五条第三項ただし書」と訂正する。

2  控訴人の付加主張

(一)  控訴人は、所得税の確定申告書の譲渡の欄に特別控除額として一、二〇〇万円と記載しており、この記載で控訴人が買換資産の特例の適用方を請求していることは、被控訴人にとって明白である。

(二)  租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第三八条の六第四項ただし書で要求される書類は、被控訴人が審査する際に参考となり得る資料で十分と解すべきであり、控訴人が提出した秋田県知事の証明書及び男鹿市森林組合の証明書だけで足りるというべきである。

(三)  原判決は、控訴人提出の本件確定申告書に措置法第三八条の六第四項本文所定の事項の記載がなかったことについて、同項ただし書のやむを得ない事情があったとは認められないとしているが、被控訴人がやむを得ない事情を認めて異議申立てにおいて実質上の審査をしたのであるから、裁判所がこれを消極的に判断すべき筋合いのものではない。

(四)  被控訴人は、更正処分及びその後の異議申立てにおいて措置法第三八条の六の適用の有無について実質審査をしたが、これは控訴人の申告又は異議申立てに対して行政庁の処分を発動して租税債権債務を確定させたものである。したがって、行政行為の公定性、不可変更性からいっても被控訴人を拘束するのであるから、被控訴人がこれに反する主張をすることはできず、裁判所においても一種の当事者間に争いのない事実同様に取り扱わなければならない。

(五)  被控訴人は、控訴人の異議申立てにつき、右に述べたように課税実体の審査をなし、その後の審査請求に対しても記載不備等の主張をせずに措置法第三八条の六第四項ただし書適用の外観と行動をとって来た。しかも、本件訴えの提起後一年数か月を経過後右記載不備の主張を始めた。控訴人は、この外観と行動から右ただし書の適用があったものとして実体審理に向けて行動して来たものであるから、被控訴人の主張は、禁反言の原則ないし信義則に違反し許されない。

3  控訴人の付加主張に対する被控訴人の反論

(一)  控訴人の付加主張(一)は独断のそしりを免れないのみならず、控訴人主張の特別控除額一、二〇〇万円の記載は、措置法第三三条の二の規定の適用を申請する場合においてのみ意味を有するものであって、同法第三八条の六の規定の適用申請が問題とされる本件とは、全く関係のないものである。

(二)  控訴人の付加主張(二)については、措置法第三八条の六第四項ただし書は、提出すべき書類として同項本文に記載する事項を記載した書類と明記しているところ、控訴人指摘の各証明書は、単なる第三者の証明文書であって、右ただし書の要求する書類に該らないことはいうまでもない。

(三)  控訴人の付加主張(三)及び(四)は、被控訴人が異議決定に際し措置法第三八条の六、第四項ただし書の「やむを得ない事情」があると認定したものと解されるとの前提に立っているが、被控訴人が異議決定に際し右やむを得ない事情」の存否について審査、判断した事実は皆無であり、また、右事情の存否について審査、判断を経なければ課税実体の審査、判断をなし得ないと解すべき何らの根拠もなく、被控訴人としては、異議申立があれば形式、実質を問わず審査するのは当然のことであるから、控訴人の前提そのものが失当である。

(四)  控訴人の付加主張(五)は争う。

理由

一  当裁判所も、原裁判所と同様、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却すべきものと判断するが、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二〇枚目表三行目に「一、六六七万七、七九一円」とあるのを「一、六六七万六、七九一円」と訂正する。

2  原判決二〇枚目表八行目に「しかし」とあるのを「措置法第三八条の六は、事業の用に供する特定の資産を譲渡し買換資産を取得した場合に、一定の条件のもとに譲渡所得に対する課税の繰延べの特例を認めるものであるが、この課税の繰延べは、事業用資産の買換えをした者に当然に適用されるものではなく、納税者においてこの制度を利用して課税の繰延べを求めるか否かの選択をすることができることとされている。そこで」と改め、同裏二行目の「定められているが、」の次に「これは、納税者の右課税の繰延べを求める意思を確実に把握することができるようにするとともに、右意思が明確に表明されない限り特例を適用しないこととして税額確定手続における画一的かつ的確な処理を可能にしたものと解される。したがって、確定申告書への記載は、右の趣旨に照らすと、納税者の意思が明確に表現され、譲渡資産、買換資産等が明示されたものでなければならないものというべきところ、」を加える。

3  原判決二〇枚目裏一一行目の「証言」の次に「及び弁論の全趣旨」を加え、同二一枚目表八行目から九行目にかけて「記載されているだけで」とあるのを「記載された申立書を提出し、これに秋田県知事の証明書及び男鹿市森林組合の証明書を添付しただけで」と改め、同一〇行目の「認められるから」から同裏一行目の「できない。」までを「認められる。措置法第三八条の六第四項ただし書で要求される書類は、同項本文の確定申告書への必要事項の記載に代えるものであるから、その記載については確定申告書への記載についてと同様のことが要求されるものというべきであるところ、右異議申立書及び添付書類の記載をもってしては、なお不十分であるといわざるを得ず、結局控訴人からは右ただし書で要求される書類の提出もなされなかったものというべきである。控訴人は、右ただし書で要求される書類は被控訴人が審査する際に参考となり得る資料で十分であると主張するが、右に述べたところから明らかなように、採用することはできない。したがって、控訴人の措置法第三八条の六の適用がある旨の主張は、失当である。」と改める。

4  原判決二一枚目裏九行目の「右主張事実だけでは」の次に「、成立に争いのない乙第四号証、原審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨から認められる控訴人の本件確定申告は税理士を通じて行われた事実等に照らすと、」を加える。

5  原判決二二枚目表七行目「できない旨」の次に「及び裁判所も同項に違反していると認定することができない旨」を加え、同行目の「左担」を「左袒」と訂正し、同八行目の「できない。」の次に「被控訴人が、右異議申立てに対する決定において、措置法第三八条の六第四項ただし書にいう書面の提出の有無及びやむを得ない事情の存否につき確定的判断を示したものということはできないので、」を加える。

6  原判決二二枚目裏一行目の「しかし」から「計算について」までを「同条の規定による特例も、課税の繰延べを認めるものであり、その適用について」と改め、同九行目から一〇行目にかけて「定めているが、」とある次に「その意味するところも、措置法第三八条の六第四項の場合と同様であると解される。」を、同一一行目の「なかったこと、」の次に「その後においても」を、同二三枚目表一行目の「認められる。」の次に「したがって、控訴人の右主張も採用の限りではない。」を加える。

7  原判決二三枚目表一行目の次に行を改めて「四 そうすると、控訴人の譲渡所得の金額は、被控訴人主張のとおりとなり(取得費が六万六、五一〇円であることは、控訴人において明らかに争わない。)また控訴人の昭和四三年の山林所得が一四〇万九七〇一円であることは当事者間に争いがなく、本件更正処分及び賦課決定は違法である。」を加え、同二行目に「四」とあるのを「五」と改める。

二  よって、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条及び八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島恒 裁判官 吉本俊雄 裁判官 相良朋紀)

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